『ソードアート・オンライン〈5〉ファントム・バレット』
4巻まででアインクラッドとそこから続くアルヴヘイムでの物語に1つの区切りがついたSAOの新展開は前巻ラストで種から芽吹いた新たなVRMMOの世界を舞台とした事件にまつわる物語。正直キリトがSAOをクリアした『英雄』として、ただVRゲームがらみの問題に引っ張り出されるだけならば、それは4巻のあの結末の後に続く話として少々無粋というか、少し寂しいなと思っていたのだけど、その杞憂を良い意味で乗り越えてくれたと思います。
まず印象的だったのはアスナを救い出して本当の意味で現実に帰還したキリトたちのやり取り。ちょっと読んでて意外でもあったんですが、図らずもキリトたちがVRMMOの世界から現実に帰還したからこそ彼らのやり取りに妙な現実感があるというか、寧ろほぼ等身大の、それこそこの現在から視て地続きの少し先の未来で普通に生きてる、そんな印象が強かったんですよね。
キリト自身が冒頭の菊岡氏とのやり取りでそう語ったようにVRMMOの世界が持つゲームとしての一面の本質である”劣等感と優越感”がより現実の生々しい温度に根ざしてるってことを改めて提示されたこともその理由になってると思います。それからやっぱりアスナを救い出したことで現実世界でもデートを重ねてるんだなーってこともその気持ちを強める一因になってますね。
勿論、気がついたらそうやって思考の逃げ場を断たれて囲い込まれるような印象を前にすると、1巻があれだけぐっさり刺さった自分としては思うところがあるわけですが、そうやって会話してる2人の基点があのSAOの世界にあると思うと、不思議と感慨深い想いも湧いてくるのが正直なところなんですよね。きっと2人にとっての”今”は誇らしげな時間であっていい、大切な時間であってほしいっていう、そんな気持ち。いや、個人的には正直キリトに対して「アスナが帰還した後で直葉の気持ちに対して答えてあげたのかぁ!?」と思わないでもなかったけど、でもよくよく考えると4巻のラストの彼女の独白を思い返すにそこはまだ保留のままの方が良いような気がしなくもない。。いやたぶん、シリカもリズベットもまだまだキリトのこと狙ってそうですしね!(苦笑)
それにしてもキリトとアスナのデートの場所がまさか皇居とは思わなかったなぁ。というか、先に読んでた『アクセル・ワールド』で皇居=帝城が通常不可侵の最高難度ダンジョンとしてあれだけ特別視されてる理由をキリトの口から聞くことになろうとは。東京の中心である皇居がどのような意味で世界から隔離された場所なのかが実感できました。そうか、皇居はALOの世界樹みたいなものなのか。そりゃ特別な場所であるはずだよなぁ(てゆか、確か世界樹の地下のヨツンヘイムの四方にあるダンジョンを超強いモンスターが護ってるってのもAWとの繋がりなのかな、やっぱり)。
あと、それからもう一つ。AW関連の話として、まさか『アインクラッド』の「イン」が『インカーネイト』の「イン」だとは思いませんでした。SAOとAWの世界はリンクしてるのではなく平行世界のようなものだとAW原作10巻のあとがきで読んだけど、確かにSAOの世界にはAWの心意システムのようなある意味での”自由度”はそぐわない気がします。けれど、現実と仮想世界の境界を描き続けていく以上、そしてキリトとアスナがそれを望む以上、この作品でも何らかの形で2つの世界の互いに凌駕し合う接点がこれからも描かれていくんだろうなぁと。そんな予感はします。
さて、今度は話を仮想世界の方に向けて。今作における仮想世界側の舞台となる新たなVRMMO≪ガンゲイル・オンライン≫は銃と鋼の世界ってことでキリトはどうするのかと思ったら、光の剣で銃弾掻っ捌いて接近戦勝負というちょっと笑ってしまうくらいの、でもこれまでの彼の戦い方を考えると実に彼らしくて納得のいく無双っぷりを見せてくれて面白い(苦笑) しかもアバターは女子と見間違える容姿だし、つくづくやってくれるなぁ。そりゃ気がついたら新ヒロインのシノンも心の内側にするりと入り込まれちゃうよ。最初に登場した時のかなり強張った印象と比べると、キリトと話してる時は正直名前が出るまで彼女本人なのか確証が持てなかったくらい、態度が和らいで女の子らしさ出てたものなぁ。てゆか、少女とアンチマテリアルライフルって組み合わせも良いけど、ホットパンツは更に素敵ですね(地味に混じる本音)。
今回の仮想世界の事件の発端である≪死銃≫はそのネーミングセンスの安直さはともかく、その銃で撃たれることが現実世界での死に繋がるという部分もSAOを彷彿と・・・させはするけど、それでもやはりどこか現実世界寄りの無粋な感情の賜物。勿論ヒロインたちにそれが向けられるのは避けてほしいけど。正直序盤ではそんな印象ばかりが強かったんですが、それを終盤で一気に詰めてきましたね。「ここで出てくるか、ラフコフ!」って感じで。
SAO1巻の中で名前は出てきたけど、エピソードまでは深くは突っ込まれていなかった≪殺人≫ギルド。SAOの世界でたった一人、けれども明確な悪意を伴った殺意をキリトに向けたあの男。キリトにしてみればはっきりと自覚した上で命を奪った相手。勿論キリトの行為は正しかったと思うけど、今回のエピソードはキリトにとってその感情を手繰り寄せるもの。
SAOの持つデスゲームとしての”痛み”の反面。自分自身の命が掛かってるってことだけでなく、PKすれば相手が死ぬということ。自覚を伴って相手を倒すというのは明確な殺意を晒すのと同じであること。なんと言うか、ここまで読んできて、この『ファントム・バレット』もまた確かにSAOの正史たるあの1巻の続編なんだなぁと実感できた気がします。キリトたちがいればそれだけでSAOの続編にはなるのかもしれないけれど、テーマの面でもそれが伴ってるのが分かったことで俄然続きが気になるようになりました。今回のヒロインであるシノンはキリトにとってかつての恐怖を共有できるかもしれない相手ということになるのですね。
そんなわけで続きが楽しみ。次巻は直葉本人の登場はあるのかなぁ(最後に漏れる本音)。